僕がフィリピンのマニラで就職したのは、今から約14年前です。
当時の僕は新卒でした。
特別な専門スキルがあったわけでもありません。
強いて言えば、海外留学を経験していて、英語がある程度話せたことくらいです。
それでもマニラで就職活動をすると、比較的すぐに2社から内定をいただきました。
今振り返ると、理由はかなりシンプルだったと思います。
「英語がある程度できて、海外で働こうとしている日本人」が、今ほど多くなかったからです。
僕の周りを見ても、当時は日本人が新卒から東南アジアへ出て、現地採用として働くことはまだ珍しかったように思います。
その後、少しずつフィリピンやタイ、ベトナム、マレーシアなどで働く日本人が増えていき、「東南アジア現地採用」というキャリアも珍しくなくなっていきました。
そして2026年現在。
僕が就職した頃とは、海外就職を取り巻く環境がかなり変わっています。
結論から言うと、
昔は「日本人+英語」だけでも希少価値がありました。
しかし今は、
「日本人+英語+専門性」
まで持っている人の価値が、より高くなっています。
さらに東南アジアの都市部では物価も上昇しています。
そのため、昔のように
「給与は低いけれど、生活費も安いから海外経験を積める」
という現地採用のメリットも、以前ほど単純ではなくなってきました。
今回は、僕自身の海外就職経験と現在のフィリピンを比較しながら、これから海外で働きたい日本人に何が必要なのかを考えてみます。
- 1 14年前は「英語ができる日本人」だけでも珍しかった
- 2 当時の東南アジア現地採用には「安く海外経験を積める」という魅力があった
- 3 ところが今は「東南アジアだから安い」とは限らない
- 4 月10万ペソではBGC・Makati生活の「うまみ」が弱くなっている
- 5 今の海外就職は「英語ができる」だけでは差別化しにくい
- 6 ITなら「英語+プロジェクトマネジメント」が強い
- 7 IT以外でも高待遇を狙える専門職はある
- 8 高待遇になる仕事には共通点がある
- 9 フィリピン経済自体も「高付加価値の仕事」を必要としている
- 10 フィリピンにはまだ「英語」という大きな武器がある
- 11 AI時代はさらに「英語+専門性」が重要になる
- 12 僕が今20代なら「英語を完璧にしてから海外へ」とは考えない
- 13 海外就職の魅力がなくなったわけではない
- 14 まとめ|「英語ができる日本人」から「英語で価値を生み出せる日本人」へ
14年前は「英語ができる日本人」だけでも珍しかった
僕がマニラで就職した頃を思い返すと、今とはかなり状況が違いました。
新卒で海外就職。
しかもフィリピンで現地採用。
当時は、こういう選択をする日本人自体がそれほど多くありませんでした。
僕自身も、
「ITエンジニアとして5年経験があります」
「海外営業で大きな実績があります」
「プロジェクトマネジメントができます」
といった専門性があったわけではありません。
それでも、
日本人であること
そして、
ある程度英語でコミュニケーションが取れること
が一つの強みになりました。
結果として、就職活動を始めてそれほど時間が経たないうちに、2社から内定をいただきました。
今考えると、
需要に対して人材が少なかった
のだと思います。
東南アジアへ進出する日系企業は増えている。
でも、英語を使って現地で働ける日本人はまだ少ない。
その需給のギャップが、当時の僕には追い風になりました。
当時の東南アジア現地採用には「安く海外経験を積める」という魅力があった
もう一つ大きかったのが、生活費です。
現地採用なので、日本勤務と比べれば給与は下がります。
それでも、
家賃
外食
交通費
マッサージなどのサービス
が今よりかなり安かったため、現地の給与でもそれなりに生活できました。
つまり、
給与は日本より低い
↓
でも生活費もかなり低い
↓
海外で働く経験まで得られる
というバランスが成立していたんです。
だから20代で、
「一度海外で働いてみたい」
「英語を仕事で使ってみたい」
「将来的にグローバルなキャリアを作りたい」
という人にとって、東南アジア現地採用はかなり面白い選択肢だったと思います。
僕自身も、そのルートから海外勤務を経験しました。
ところが今は「東南アジアだから安い」とは限らない
現在フィリピンで生活していると、当時との違いをかなり感じます。
特にBGCやMakatiのようなマニラの中心エリアです。
コンドミニアム。
カフェ。
日本食。
海外ブランド。
輸入食品。
Grab。
こうした生活をしていると、
「これ、大阪とそこまで変わらないのでは?」
と感じることも珍しくありません。
もちろんローカル市場やローカル食堂、各種サービスなど、日本より安いものはまだたくさんあります。
ただし外国人が生活しやすい都心部に住み、日本人が慣れている水準の生活をしようとすると、話は変わります。
昔ほど、
「東南アジア=生活費が圧倒的に安い」
とは言えなくなっています。
ここが、現在の現地採用を考えるうえでかなり重要です。
月10万ペソではBGC・Makati生活の「うまみ」が弱くなっている
たとえばフィリピンで月10万ペソの給与をもらうとします。
フィリピン全体で見れば、決して低い給与ではありません。
ただ、BGCやMakatiで一人暮らしをして、
ある程度きれいなコンドミニアムに住む。
Grabも使う。
日本食やカフェにも行く。
ジムにも通う。
旅行もする。
そして貯金や投資もする。
となると、10万ペソではかなり余裕が小さくなります。
生活はできます。
でも、
「日本を出て東南アジアで働く経済的なメリットは何だろう?」
という疑問が出てきます。
個人的には現在のBGC・Makatiなら、
10万ペソ:生活はできるが余裕は小さい
15万ペソ:一人暮らしなら比較的現実的
20万ペソ以上:生活の質と貯蓄・投資を両立しやすくなる
くらいの感覚です。
だからこそ、今の現地採用では給与を上げられる専門性が以前より重要になっています。
今の海外就職は「英語ができる」だけでは差別化しにくい
14年前と今で、大きく変わった部分があります。
英語を使える日本人が増えました。
海外で働くこと自体も以前ほど珍しくありません。
さらに、
Zoom
Slack
Teams
翻訳AI
ChatGPTなどの生成AI
によって、国境を越えたコミュニケーションのハードルも下がりました。
つまり、
「日本人で英語ができます」
だけでは、昔ほど希少性がありません。
企業側からすると、
「なぜこの人を採用する必要があるのか?」
という、もう一段深い理由が必要になります。
そこで重要になるのが、
英語+専門性
です。
ITなら「英語+プロジェクトマネジメント」が強い
わかりやすい例がITです。
フィリピンには世界中の企業のIT・BPO拠点があります。
現在のフィリピンIT-BPM業界も、単純に人員を増やす方向から、AIを活用した人材や、より高付加価値な業務へ移行する方向を明確に打ち出しています。
業界団体IBPAPは2026年、2028年に向けた成長について、今後は「人数」よりも「能力」が重要になり、高付加価値領域への進出やAI人材育成が必要になるとの見通しを示しています。
たとえばIT Project Managerなら、
日本人
+英語
+IT業界5〜10年
+プロジェクト管理
+日本企業対応
+10〜30人規模のチーム管理
といった経験がある。
そして、日本企業とフィリピン人エンジニアの間に入って、
要件整理
スケジュール管理
予算管理
品質管理
リスク管理
顧客対応
チームマネジメント
まで行う。
ここまでできれば、
「英語を話せる日本人」ではなく、「数千万円規模のプロジェクトを動かせる日本人」
になります。
当然、企業が払える給与も変わります。
BGCやMakatiで現地採用として働くなら、このような専門職・管理職で20万ペソを超える水準を狙えるくらいになると、生活面でも現地採用のメリットを感じやすくなると思います。
IT以外でも高待遇を狙える専門職はある
これはITだけの話ではありません。
重要なのは、
「日本語や英語ができること」ではなく、「企業の売上・利益・重要業務にどれだけ貢献できるか」
です。
法人営業・Business Development
たとえば日系企業向けの法人営業です。
日本企業を新規開拓する。
日本本社と交渉する。
フィリピン側のチームと調整する。
契約を取る。
売上目標を達成する。
こうなると、
日本人+英語+B2B営業+マネジメント
という組み合わせになります。
特に日本市場から売上を作れる人は、海外拠点でも価値があります。
金融・Relationship Manager
銀行や金融機関で、日本人富裕層や日系企業を担当する仕事もあります。
預金。
融資。
投資。
法人金融。
こうした金融商品を扱いながら、顧客との関係を作ります。
必要になるのは、
日本語+英語+金融知識+営業力+法人・富裕層対応
です。
単純な通訳ではなく、自分で売上を作る仕事なので、その分価値も高くなります。
Finance・Accounting・FP&A
フィリピンには多くのグローバル企業のシェアードサービス拠点があります。
日本法人の、
経理
決算
予算管理
財務分析
FP&A
税務
などをフィリピンから担当するケースもあります。
さらにFinance ManagerやRegional Controllerまで行けば、
日本語+英語+会計・財務+マネジメント
という強い組み合わせになります。
Marketing・Account Management
マーケティングでも同じです。
単にSNS投稿を作るのではありません。
日本市場の売上を担当する。
広告予算を管理する。
大手顧客を担当する。
海外チームと連携する。
マーケティング戦略を作る。
こうなれば、
英語+マーケティング+日本市場の理解
が価値になります。
高待遇になる仕事には共通点がある
IT、営業、金融、会計、マーケティング。
一見すると違う仕事ですが、共通点があります。
それは、
「会社の売上・利益・重要プロジェクトに直接関わっていること」
です。
IT Project Managerなら、大規模な開発案件を成功させる。
Sales Managerなら、売上を作る。
Relationship Managerなら、顧客のお金を預かり金融商品を販売する。
Finance Managerなら、企業のお金を管理する。
Marketing Managerなら、市場を作り売上を伸ばす。
だから企業は高い給与を払えます。
逆に、
日本人+英語+一般事務
だけでは、高い給与を出す理由を作りにくくなります。
これは今後さらに顕著になると思います。
フィリピン経済自体も「高付加価値の仕事」を必要としている
実はこれは、日本人の海外就職だけの話ではありません。
現在のフィリピン経済そのものが抱えている課題でもあります。
世界銀行によると、フィリピンでは2010年以降に1,170万以上の雇用が増え、実質賃金も平均24%上昇しました。
一方で、経済成長の90%以上は資本投入によるもので、生産性向上による寄与は10%未満でした。
さらに、新しく生まれた仕事の4分の3は国際競争にさらされにくい国内向け産業でした。
輸出企業は同程度の国内向け企業より約20%生産性が高いにもかかわらず、輸出競争力は低下しています。
つまりフィリピン自身も、
「安い労働力を大量に提供する国」
から、
「高いスキルを持つ人材が世界市場へ価値を提供する国」
へ移行する必要があります。
世界銀行も、生産性向上、競争促進、人材育成、規制改革、海外市場とのつながりを強くすることが、より高い賃金と良質な雇用につながるとしています。
フィリピンにはまだ「英語」という大きな武器がある
それでも、僕はフィリピンにはかなり可能性があると思っています。
理由は、
英語力
+若い人口
+BPO産業
+海外とのつながり
がすでにあるからです。
タイやマレーシアと同じ道を進む必要はありません。
フィリピンなら、
コールセンター
↓
IT・経理・医療・金融・マーケティング
↓
AIを活用した高度専門サービス
↓
世界向けの知識産業
という成長ルートがあります。
実際、IT-BPM業界もまさにその方向を目指しています。
ただし、規制の複雑さや競争不足、スキル不足などは依然として課題です。
世界銀行も、企業の成長を妨げる要因として規制の複雑さや競争上の課題を挙げています。
外国資本についても、多くの業種では100%外国資本が可能ですが、土地所有や一部の公共事業などには現在も制限があります。
フィリピンが本格的に高賃金国へ近づくには、人材だけではなく、こうしたビジネス環境も変わっていく必要があります。
AI時代はさらに「英語+専門性」が重要になる
ここにAIが加わります。
以前であれば、
翻訳する。
メールを書く。
海外の人から問い合わせを受ける。
英語で簡単な事務作業をする。
こうした仕事にも「英語ができる人」の価値がありました。
しかし今はAIでかなりの部分を補えるようになっています。
だから、
英語だけの価値は相対的に下がる
と思います。
一方で、
交渉する。
顧客との関係を築く。
問題を発見する。
プロジェクトを動かす。
専門知識を使って判断する。
チームをマネジメントする。
こうした仕事は依然として重要です。
そこに英語が加わることで、活躍できる市場が日本国内から世界へ広がります。
つまり、
AI時代だから英語が必要なくなるのではありません。
むしろ、
「英語だけ」では足りなくなる。
ということです。
僕が今20代なら「英語を完璧にしてから海外へ」とは考えない
僕自身、14年前は専門性がない状態でも海外就職できました。
結果的に海外勤務を経験し、その後の仕事や人生にも大きな影響がありました。
だから、若いうちに海外へ出ることには今でも大きな価値があると思っています。
ただ、もし僕が今20代で、これから海外就職を目指すなら、当時とは少し戦略を変えます。
「まず英語を完璧にする」
とは考えません。
代わりに、
自分がこれから伸ばしたい専門分野を決める。
そして、
その仕事で必要になる英語を同時に伸ばす。
営業なら営業×英語。
ITならIT×英語。
マーケティングならマーケティング×英語。
金融なら金融×英語。
会計なら会計×英語。
こうやって、
専門性と英語をセットで育てます。
なぜなら、企業が欲しいのは、
「英語が上手な人」
ではなく、
「英語を使って仕事の成果を出せる人」
だからです。
海外就職の魅力がなくなったわけではない
ここまで読むと、
「では東南アジアで現地採用になる意味はもうないのか?」
と思うかもしれません。
僕はそうは思いません。
意味が変わったのだと思います。
14年前の僕にとって東南アジア現地採用は、
「英語を使って海外キャリアをスタートできる場所」
でした。
今は、
「自分の専門性を世界市場へ広げる場所」
になりつつあります。
海外企業。
日系グローバル企業。
現地法人。
リモートワーク。
海外クライアント。
今は14年前より働き方そのものは増えています。
だから大切なのは、
「海外で働くこと」そのものをゴールにしないこと。
どんな仕事をするのか。
どんな専門性を身につけるのか。
どの市場で働くのか。
どのくらいの給与を得たいのか。
5年後、その経験がどんなキャリアにつながるのか。
ここまで考えて海外就職先を選ぶことが、以前より重要になっています。
まとめ|「英語ができる日本人」から「英語で価値を生み出せる日本人」へ
僕がマニラで就職した約14年前は、
日本人+ある程度の英語
だけでも希少価値がありました。
新卒だった僕でも、比較的短期間で2社から内定をいただくことができました。
しかし今は状況が変わっています。
東南アジアの都市部では生活費が上がり、
英語を話せる日本人も増え、
AIによって単純な言語業務の価値も変化しています。
だからこれから海外就職を目指すなら、
日本人+英語
で止まらないこと。
その先に、
日本人
+英語
+専門性
+実務経験
+世界市場
を作っていく。
これが重要だと思います。
英語を勉強する目的も、
「英語がペラペラになること」
だけではありません。
自分が持っているスキルを、日本だけでなく世界で使えるようにすること。
僕自身が海外勤務を経験して感じているのは、英語の大きな価値はここにあります。
14年前、僕は英語をきっかけに海外で働く世界へ入ることができました。
今の時代なら、そこからもう一歩進んで、
「英語を使って、世界のどこでも価値を提供できる人になる」
ことを目指す。
これが、これからの海外就職ではますます重要になっていくと思います。





























